sあまくさ》、島原等の九州の諸港でも、紀州沿岸の江浦でも、近く房州、伊豆等に於ても、天候や地勢や生業等の諸條件を稍等しくして居るものの間には、亦必ず共通な人間生活及び其表現を見出し得るのである。ゲエテが古い伊太利亞紀行を讀んでも、殊に其エネチア、ナポリ、シシリヤ等の諸篇は同樣の興味からして予等の膝を打たしめるのである。
温和なる氣侯が彼等を怠惰にする。荒海の力と音とに對する爭が彼等の筋肉を強大にし、其音聲を太く、語調を暴くする。それにも拘らず、常に遠く人里から離れて居る彼等の生活が夫婦間の愛情を濃かにする。誰かあの岩疊の體格、獰猛な顏容の裡に此種の sentimentalisme を豫期しよう。が、同時に、海濱に於ける作業に必然要求せらるる共同生活が、仕事の責任者を無くすと同時に仲間同志の思遣りを深くすると云ふ事は確かである。年寄つた漁夫は小さい子供等を始終叱責して居るけれども、其粗暴な言葉の裏にはきつと快活な諧謔を潜ませて置くのである。この共同生活が實際また、かの渡り鳥や旅行者の心安さのやうに、生活と云ふものを如何にも愉快さうなものにして居る。そして又青い――青い彼方から雲のやうに
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