幾何《いくばく》。いまだ檢出せられざる微量の毒物を、含有してはゐないか。是等の問題はまだ詳しくは研究せられてゐず、僕としてさういふ研究に入りこむ餘裕を持つてゐるわけではないのである。

 それで最後に殘つたすかんぽ[#「すかんぽ」に傍点]の話へと急ぐ。別にこれと云ふほどの事の有るのではなく、唯幾十年ぶりかにそれを食べて見て、「白頭江を渉《わた》つて故郷を尋」ぬる人の如き一種の感興を得たと云ふに止るのである。
 大學構内の公開の場所には今やどこにもすかんぽは見つからなかつた。恐らくは大震災後根が絶えたのであらう。所が農學部の裏門からはひる小徑のわきの地面に其|聚落《しゆうらく》の有ることをふと見付けたのである。花莖はいまだ甚だ伸びず、なほ能《よ》く水分を藏し葉柄《えふへい》もかなり太かつた。數日後の夕、寄道してその少許《せうきよ》を採取し、クロオルカルキとか云ふもののうちに漬くること一日、之を短く切つて、まだ廚房に少し殘つてゐた油と鹽とを點じて食べ試みた。そしてその酸き味のあとに舌に觸れる一種の※[#「※」は「くさかんむり+郷の中を皀に換えたもの(郷の旧字)」、第3水準1−91−29、2
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