注いだ。
子供は、あぶなさうに立ちながら、肥えてまるく鞠のやうに短い両手で、すこしのすきまもなく、そしてあまりに早くテーブルの上のものを掻き廻さうとしてゐた。それで彼等は微笑みみ[#「み」余分か、それとも「見」か?]ながら、すべて茶碗や土瓶、アルミ鍋などを、テーブルの下に置いた。テーブルの上には、わづか子供の持つ小さなスプーンと小皿が一枚残されたばかりであった。
けれども子供は、さわがしい、小さなよろこびに満ちた叫声を上げて、スプーンと皿をテーブルの上にたゝきつけた。
『きかない奴だな。』若い父親は、その小さなまるい腕や、敏捷に怜悧《れいり》にすきもなく動いてる、黒みがちの睫のながい子供の瞳をぢっと見てゐると、どうしたらいゝだらうといふやうに、やがて顔一ぱいな微笑《ほゝゑみ》を持って、子供のまるくつき出た頬を指で一寸つまみながら、大きな茶碗をテーブルの下から探すやうにしてとると、彼女の手に渡した。
彼女は鍋から熱い炊《た》き立ての、白い湯気が一ぱい立ち上ってる御飯をついで彼に渡した。そして彼女の若い大きな瞳も、母親らしい嬉しさにみちて子供の瞬間もぢっとしてない、小鳥のやうに愛らし
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