う。彼女の足は、ベッドから垂れて、ぶる/\とふるへてゐた。
『さ、私につかまって立ってごらんなさい。かうして、杖を両脇にはさんで、』
 彼女は杖をしっかりつかんだ。そして立上ったけれども、看護婦のおさへた手が少しでもゆるむと、浮草のやうにくら/\と動いて、眼は夢のなかのやうに物事をはっきり見ることが出来なかった。
『さうして、一寸、一寸、飛ぶんですよ、しっかりつかまへて上げますからね。』
 彼女は、さういふ看護婦を恐れた。飛ばなきゃならないと思ふけれども、どうして足を浮かしていゝものやら、彼女は足の運び方を、すっかり忘れてゐた。そして、やうやくはっと飛んだと思った時には、わづか彼女の足元は一寸《いっすん》位しか動いてゐなかった。
 お葉は、床の上に丁字杖を持ったまゝ天地に頼りないものゝやうに涙ぐんだ。歩くといふ事が、これ丈悲しい恐ろしい頼りないものとは思はなかった。ベッドの上に、早くベッドの上に自分の身体を毛布のなかにつゝんでしまひたい。看護婦は、彼女をひきずるやうにして、漸く窓ぶちにつれて行った。わづか一間《いっけん》、それがお葉には海山の隔りのやうにも思へた。初めて窓から空を見た時
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