べてが淡紅色にはてなく見えた。彼女は恐ろしい。いそいで眼を掩ふ布を取らうとしたが、彼女の手が動かない。どこか遠くから、ゾロゾロと人の来る気配がする。彼女の手は漸くふるへて動いた。お葉の周囲は拡がった。そして驚く程明るく美しかった。天井は円く高くギャマンで張りつめられ、七色《しちしょく》に日光が輝いてゐる。そして置かれたすべての器物は、銀色《ぎんしょく》に冷たく光ってゐるのだ。この美《うるは》しい限りない恐ろしさ、彼女は暫くも見る事は出来なかった。逃れたやうな瞳を哀願的に左にめぐらした時、遠く見える部屋の彼方から白衣、白帽の医師たちがいかめしく歩いて来てゐる所だった。と、いつの間にやら、静かによって来た看護婦が、ガーゼの布をたゝんで、お葉の目の上に置いた。
 お葉は、もうどうする事も出来ぬ、改めて不意打でもされるものゝやうに、医師《あのひと》たちがよって来たなら、どんな事をされるか解らない。殺されるんだと考へたけれども自分の身体は少しも動かない。心ばかりが、本当にポプラの葉のやうにふるへる。そして何処《どこ》からともなく、金属のふれ合ふやうな響を感じて彼女は、たえずおびえた。白い、そして
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