の床《とこ》のなかで、やがて眼さめた時は、黄昏近い空にかわききったやうな木の葉をつけた、すゞかけの木がたゞ一つ彼女の眼に入った。彼女は耳をすました、けれども階下《した》からは、何の音も聞えて来なかった。彼女は時子の涙によごれた小さな黒い寝顔を見つめた。そして考へたことは、彼女にとって堪へがたく寂しいことであった。朝子は良人を呼んだ。繁吉はすぐ静かに上って来て、
『呼んだかい。』と聞いた。彼女はうなづいたけれども、何にも云ふことが出来なかった。
(『新潮』大正7・3)
底本:「素木しづ作品集(山田昭夫編)」札幌・北書房
1970(昭和45)年6月15日発行
初出:「新潮」大正7年3月号
入力:小林徹
校正:湯地光弘
1999年9月5日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全9ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング