珠がのっていた。
 おかしい、と楯井さんは口の中で云って、その側へ静かに歩みよると、首をのばして熟視した。火の玉は、玉の心まですきとおっているようで、また表面だけ光っているようでもある。楯井さんは、その太い長い棒で力まかせに叩きつけた。青い光りの玉は、何の音もせずに消えた。楯井さんはふと変な気がした。全く何の手ごたえもしない。そして心の底まで冷《ひや》っとするような気がすると、それと同時に楯井さんは、すぐ嫁さんの霊《たまし》だと思込んでしまった。
 小屋の入口の所で、この様子をみていた楯井さんのおかみさんは、楯井さんがこちらに向って歩いて来るのを見ながら、
『なんだろう、父《とっ》さん、あんな鳥がいるというが、鳥なら人が行けば逃げそうなもんだね。』
 と云いながら急に、
『父《とっ》さん、父《とっ》さん、また出た。また出た。』
 と叫んだ。楯井さんは急に後を振りかえると、今度は少しはなれた切株の上に、やはり前と同じ火の玉が青白く光っていた。楯井さんは、また静かに歩いて行くと、その切株の側まで行って、例の棒で叩きつけた。火の玉は、またはっと消え去った。
 楯井さんは、それを三度くりかえし
前へ 次へ
全25ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング