、おむつ[#「おむつ」に傍点]をかへたり等《など》してゐた。そして多緒子《たをこ》は赤ん坊の顏を時々見つめながら、彼女の頭にはいろ/\の幻が、走馬燈のやうにまつはつてゐるのであつた。
 彼女は忽ちいつか電車のなかで見た、桃割に結つた内氣なおとなしい十六七の娘の淋しさうな横顏を思ひ浮べた。そしてそれが自分の娘であつた。彼女はその娘に對するいろ/\の心づかひや、衣服の選擇などを思ひ浮べた。
 また彼女はいつか道ですれ違つた、海老茶色のリボンを前髮につけた眼の大きい、黒い編上げの靴をはいた快活さうな少女のことを考へた。そしてそれがまた彼女の子供であつた。彼女はすぐに通學する用意や、それに對する種々な注意、リボンの色合や袴の色について考をめぐらした。そして多緒子は、自分の持つてるフランス製の小さな女持の金時計を、その子供に與へなければならないと思つたのであつた。
 けれども多緒子はまづ氣がついたやうに、第一、六つになつたならば幼稚園に通はせなければならないのだと考へた。また白いエプロンをかけて、赤い羅紗の輕い靴をはかせて、道を眞直に迷はないで石ころをよけて歩くやうに、片手をひいて幼稚園まで送つ
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