いた。そして御互《おたがい》に青年だちは、その息も聞えないような少女について考えなかったし、また少女も小さな彼女の身体《からだ》によって作られた闇のなかに封じられてしまったように、ランプの光りの方に振り向うとも、彼等の話しに耳をかたむけようともしなかった。
『おヤ、君の妹はあんな所で本をよんでるの。』
不意に一人の友だちが隅の方に頁をまくる音を聞いて云った。
『うん、そうだろう。』彼女の兄も同時に、隅の方を見た。
『本をよみ出すとまるで狂人《きちがい》でね。側で悪口を云っても聞えないんだから。』兄は嬉しそうに笑った。
『目が悪くなるよ。』とそれからまた声をかけた。少女は、ふと器械的に振り向いて微笑した。しかし誰れの顔も網膜にうつらなかった。只、明るさがまぶしく目についたばかりであった。そしてまたすぐ、彼女は暗いかなしいまぼろしにつゝまれてしまった。
その夜、おそく少女は自分の部屋の寝床のなかに入った。そして彼女が夢に入ってゆく時、寝床が軽く空に持ち上げられるような気がした。少女は、その夜夢を見た。
そこは、少女の記憶に、植物園らしかった。少女は、赤い花をほしいと、一生懸命に前から
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