歩いていた。しかし少女の歩いてる所にはなんの花も咲いてなくって、道の色は白かった。けれどもやがて彼女は遠い所に、赤い点のようなものを見つけていそいだ。そして、小さなダリヤの花を一本見つけた。それで、彼女はいそいで折り取ろうとすると、その花は見るうちに驚くほど大きくなって、牡丹のはなのようにくずれてしまった。おどろいて手を引くと、ずっと前にも前にも赤い花が一ぱいにつらなって咲いている。そしてそれが焔《ほのお》のようにくずれては燃えてるのだ。
 少女は、おどろいて茫然たってしまった。すると、彼女は足元から蒸すような熱さを感じて、めまいがすると、そのまゝくら/\と倒れようとした。
 翌朝、ほのかな暁の光りと共に、少女は夢を忘れてしまった。そして北国《ほっこく》の晴涼な、静寂な、夏休の第一日目の暁を、少女は常のように楽しい安らかな夢から、白い床の上に一人目覚めた。そして、朝の鮮《あた》らしい、光りに対する歓喜の為めに、無意識に床のなかゝら、つやゝかなゆたかな片腕をさしのべて、枕際の窓のカーテンを引きあげようとした。けれども彼女は急に、おどろいたような不快な表情をして、床の中に再び引込んだ。
 そして直ちにいまわしい重苦しい、だるい気分になって、どうしたわけか時々おそわれるように羞《はずか》しさが、少女の乱れたお下髪《さげ》の髪の先から、足の先までをぞっとさせた。そして夜具のなかの両足が、物におびえたようにふるえた。
『どうしたらいゝだろう。』
 けれども少女は、そのまゝ床のなかにいるという事も出来なかった。わずかに起き上っては見るけれども、いつものように着物をきるだけの元気はなかった。そして急に目覚めた歓喜も、すべて小さな幸福までも少女の心から消えてしまって、日を見ることの出来ない土のなかのもぐら[#「もぐら」に傍点]のように悲しかった。やさしい母にもなつかしい兄にも姉にも、自分は罪人のように逢うことが出来ないように思った。
『どうして逢おう。』少女は、この不意な、肉体上の今の変化が、なにか知られざる罪に対する罰のように思われてならなかった。けれども彼女はすぐに、『わたしは知らないのです。私はなんにも悪いことを致しません。』と心のなかに哀願した。少女は、まだ若い幼い心に、苦しみや悲しさは、悪という罪に対してのみ受ける罰でなければならないと思ってたのだ。そしていま、この烈しい
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