閉ぢて、静かな息をついてゐた。
お葉は、初めて、やうやく、彼と自分との間にかつて見なかった所の、そしていづこから来たとも知れないこの小さな生き物が横へられてあるのを見て驚いた。彼女はしみじみと、半ば布団のかげに、半ば白い光りをあびてる幼な児の顔を不思議なものゝやうに見つめた。
「私から、私からこの生き物が生れた?」どうしてそんな事を信ずることが出来よう。おゝそして、それが我子、我子と云はねばならないか。どうして、そんな事を信ずることが出来やうか。」
あの苦しいなやみ、あの苦しい痛みのうちにこの赤ん坊が生れたとしたならば、それは神か悪魔でなければならない。けれども、この生れ出たこの悪魔は、神はどうしてあはれむべきものであらうか。
『私は、私が赤ちゃんを生んだのでせうか。そうして、この赤ちゃんは、一体誰れのものなのでせう。』
彼女は男の目覚めてるのを見て云った。
『可哀想だ、俺はたゞ可哀想でならない。そして、この生れて来たあはれな小さなものは俺だち二人のなかに生れ、俺だち二人の間にゐるのだからね、なんといふ可愛いやつだらう。大切にしなければならない、なにしろ、しかしどうしたらいゝもの
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