ずかのアリエルの如く、玲瓏《れいろう》として澄明なる一物が軽くわたしの背を揺《ゆすぶ》るのです。即ち知る、あなたと凡ての造物との間には、不思議な連鎖が繋《つなが》っているのです。そうです。それで春の野原、御覧なさい、それはちょうど可憐な女の、夜《よる》、その身を任せる人に笑いかけるように、にっとあなたに笑いかけているではありませんか。
  ああ、わたくしはあなたに物を訴えようとしたのでした。それだのにわたくしの口は喜び酔いしれた言葉でうち膨《ふくら》みます。もうあまり長くはここに立っていない方が好いでしょう。この杖を以て三たび床《ゆか》をば叩きましょう。そしてこの天幕の裡《うち》を、夢の姿を以て満しましょう。皆《みんな》に重い悲哀を担《かつ》がせて、よろよろと行き悩ませてやりましょう。泣きたい人をば泣かせてやり、そしてどんなに大きな憂愁が、この世の凡ての営みにうち雑《まじ》っているかと云うことを、身にしみじみと感じさせてやりましょう。ここに演じまする一齣《いっしゃく》の劇曲は、暗い、苦しい一時《いっとき》の鏡中の像《すがた》をばお目にかけるのです。世にも大《おおい》なる宗匠に対する深い
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