黒髪にかざしている。どことなく壮《わか》き男のようなる処あること、恰《あたか》もジヤニイノに処女《むすめ》処女したる処あるに似ている。彼等の後方には一侍僮戸口から出て来る。手に打ち出し模様の銀の酒杯を携えている。
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アントオニオ 夢みるように、夕風のうちに立つ遠い樹の茂りのおもしろさ……。
パリス 青い入江を行き過ぐる倏忽《しゅっこつ》の白帆のかげに美を覚り……。
チチアネルロ (軽く首を下げて少女たちに会揖《かいゆう》しながら。――少女たち皆その方を向く。)あなたがたの髪のにおいを、その沢《つや》を、またあなたがたの形の象牙の白さを、柔かに巻く黄金の帯を、音楽として、幸福として感ずるのは――畢竟《ひっきょう》、先生が僕たちに、物を見ることを教えてくだすったからなんですよ。(苦渋の調子にて。)だがあの下の町の人々にはそんな事は一切分らないでしょう。
デジデリオ (少女たちに。)先生はおひとりなのですか。誰も往ってはいけないのですか。
ラヴィニア ここにいろとおっしゃりました。今は誰も来てはいけないのですって。
チチア
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