《きょうよう》、笑いながら膨れ上る円い灰色の雲、宵々に棚引く銀紅の雲、それ等は皆魂を持っている。彼に由って心を獲来《えきた》ったのだ。裸《はだか》の薄青い岩から、緑の波のたぎり飛ぶ白い飛沫《しぶき》から、黒い広野の微動だにしない夢想から、雷に撃《う》たれた※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《かしわ》の樹の悲哀から、凡てそれ等のものから我々の理解し得る人間的のものを作り来り、又われわれに夜《よる》の物の化《け》を見ることを教えてくれた。
パリス 彼はわれわれを半夜より起し、われわれの心を明るくし且《か》つ豊富にしてくれた。日々《にちにち》の流れ、差す潮引く潮を戯曲として味い、あらゆる形の美を理解し、又われわれの内心を凝視する術を教えてくれた。女、花、波、絹、黄金、また色|斑《まだ》らなる石の光、高き橋、春の渓谷、その水晶なす泉のほとりには金髪のニンフの群れる――また人の唯夢にのみ見るを得るもの、またわれわれを取囲む醒《さ》めた現実、それ等は凡て彼の心中に浸透して後、初めてその美を得来《えきた》ったのだ。
アントオニオ 丈高く美しい人には歌謡の舞蹈《ぶとう》、色斑らなる仮面には炬火
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