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デジデリオ 誰かよく生きる、彼《かれ》の後《のち》に。芸術家にして真に命《いのち》を有するもの、その精神は高らかに能《よ》く万象を馴致し、単純にして且《か》つ賢きこと童子の如きもの、果して有るを得るか。
アントオニオ 誰か能く彼の天稟《てんぴん》に参通し得る者ぞ。
バチスタ 誰かよく彼の知識の前に悚然《しょうぜん》たらざるを得るか。
パリス 誰か能くわれわれの芸術家でありや否やを断じ得る者ぞ。
チチアネルロ 生のない森をば彼は生かした。褐色の池のぴたぴたと音《ね》を立てる処、蔦の葉の山毛欅《ぶな》の幹にまとわる処、その空寂の裡に彼は能く神々を拉《らつ》し来《きた》った。サチロスはその笛を以てシリンクスを喚び起し、あらゆる物をして欲望に膨れしめた。そして牧人は牧女に伍して……。
バチスタ 引いて行く、実質もない雲には彼は心を賦与した。被衣《かつぎ》のような、淡い、白いひろがりをば、淡く甘美なる※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]《しょうこう》の心と解いた。金の覆輪を置いた黒い物々しい雲の洶湧
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