と、ざわざわと、星の閃《ひらめ》きが柔かな、不眠の広野の上に落ち散る。重く血を満した凡ての果実が、黄いろい月、そのふくよかな光のうちに膨らむ。月が動き、凡ての泉が輝き、荘厳《そうごん》の大諧調|立所《たちどころ》に目をさます。その時雲が急に行き過ぎて、柔い素足の残す跫音《あしおと》かと思われた……で、僕はそっと起き上った――それまでは君にもたれていたのだった――。
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かく話しつつ立上る。チチアネルロの方に身を屈げて。
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夜を罩《こ》めて気持のよいものの音《ね》がたゆたい、まっ黒な月桂の樹陰《こかげ》に、暗香それと知られたるヘスペリスの花壇に沿うて立つファウンの大理石の手に弄《もてあそ》ばるる笛の、ゆるやかな歎息《ためいき》かなぞ聴いてでもいるようだったぜ。そいつ、大理石の色に光って、静かにそこに立っていたが、そのまわりには銀碧《ぎんぺき》の色|湿《うるお》う茂みに、柘榴《ざくろ》の花は口を開いてゆすぶれてい、沢山の蜂のそこに飛んでいるのがありありと見えた。その鮮紅の裡に潜んで、ひたぶるに吸い
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