夾竹桃の家の女
中島敦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呼吸《いき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五六十歩|下《お》りて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)稍※[#二の字点、1−2−22]《やや》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ピチヤ/\
−−

 午後。風がすつかり呼吸を停めた。
 薄く空一面を蔽うた雲の下で、空気は水分に飽和して重く淀んでゐる。暑い。全く、どう逃れようもなく暑い。
 蒸風呂にはひり過ぎた様なけだるさ[#「けだるさ」に傍点]に、一歩一歩重い足を引摺るやうにして、私は歩いて行く。足が重いのは、一週間ばかり寝付いたデング熱がまだ治り切らないせゐでもある。疲れる。呼吸《いき》が詰まるやうだ。
 眩暈を感じて足をとゞめる。道傍のウカル樹の幹に手を突いて身体を支へ、目を閉ぢた。デングの四十度の熱に浮かされた時の・数日前の幻覚が、再び瞼の裏に現れさうな気がする。其の時と同じ様に
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング