世界考察を無視した・全然別の側からの世界評価によってもまた同じことだと彼には思われた。即ち、頭の中だけで造り上げられた少年の虚無観に、今や、実際の身辺の観察から来た直接な無常観が加わって来たのだ。麾下《きか》数万の軍勢を見渡しながら、百年後にはこの中の一人も生残っていないであろうことを考えて涕泣《ていきゅう》したというペルシャの王様のように、この少年は、今や、自己の周囲の凡てに「限られたるもののしるし[#「しるし」に傍点]」を認めて胸をさされるのであった。物についてばかりではない。とりわけ、どのようなまことの愛情でも、それが他の極めて詰まらないものと同様に果敢《はか》なく消えて行くことに、彼は身を焼かれるような烈しい悲しさ寂しさを感じた。――(更に何年か経って、今度は、反対に、どのような愚劣|醜陋《しゅうろう》な事柄でも、崇高な事物と同様に、存在の権利を有ち、何らの醜い酬をも受けずに、美しいものと少しも変りなく、その存在を終えて行くことに、心の冷え行くようなむごたらしい[#「むごたらしい」に傍点]感動を覚えたのだが。)――
(註2) 不思議なことに、小学生の頃の彼は、全体的な人類の滅亡
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