子路としてはまず己の主人を救い出したかったのだ。さて、広庭のざわめきが一瞬静まって一同が己の方を振向いたと知ると、今度は群集に向って煽動《せんどう》を始めた。太子は音に聞えた臆病者《おくびょうもの》だぞ。下から火を放って台を焼けば、恐れて孔叔(※[#「りっしんべん+里」、第3水準1−84−49])を舎《ゆる》すに決っている。火を放《つ》けようではないか。火を!
既に薄暮《はくぼ》のこととて庭の隅々《すみずみ》に篝火《かがりび》が燃されている。それを指さしながら子路が、「火を! 火を!」と叫ぶ。「先代孔叔文子(圉)の恩義に感ずる者共は火を取って台を焼け。そうして孔叔を救え!」
台の上の簒奪者《さんだつしゃ》は大いに懼れ、石乞《せききつ》・盂黶《うえん》の二剣士に命じて、子路を討たしめた。
子路は二人を相手に激《はげ》しく斬り結ぶ。往年の勇者子路も、しかし、年には勝てぬ。次第に疲労《ひろう》が加わり、呼吸が乱れる。子路の旗色の悪いのを見た群集は、この時ようやく旗幟《きし》を明らかにした。罵声《ばせい》が子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体《からだ》に当った。敵の戟《ほこ》の尖
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