屬するものであることは疑ひない。しかし、この儘では、第一流の作品となるのには、何處か(非常に微妙な點に於て)缺ける所があるのではないか、と。
舊詩を吐き終つた李徴の聲は、突然調子を變へ、自らを嘲るが如くに言つた。
羞《はづか》しいことだが、今でも、こんなあさましい[#「あさましい」に傍点]身と成り果てた今でも、己は、己の詩集が長安風流人士の机の上に置かれてゐる樣《さま》を、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たはつて見る夢にだよ。嗤《わら》つて呉れ。詩人に成りそこなつて虎になつた哀れな男を。(袁※[#「にんべん+參」、第4水準2−1−79]は昔の青年李徴の自嘲癖を思出しながら、哀しく聞いてゐた。)さうだ。お笑ひ草ついでに、今の懷《おもひ》を即席の詩に述べて見ようか。この虎の中に、まだ、曾ての李徴が生きてゐるしるし[#「しるし」に傍点]に。
袁※[#「にんべん+參」、第4水準2−1−79]は又下吏に命じて之を書きとらせた。その詩に言ふ。
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偶因狂疾成殊類 災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵 當時聲跡共相高
我爲異物蓬茅下 君已乘※[#「車+召」、第3水準1−
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