、此の五つの称号の全部、もしくは過半数を(人望により、或いは功績により)得たる者、推されて王位に即《つ》くなり。而して、通常、五つの称号を一人にて兼ね有する場合は極めて稀《まれ》にして、多くは、王の他に、一つ或いは二つの称号を保持する者あるを常とす。されば、王は、絶えず、他の王位請求権保持者の存在に脅されざるを得ず。かかる状態は必然的に其の中に内乱紛争の因由を蔵するものというべし。
[#地付き]――J・B・ステェア「サモア地誌」――
[#ここで字下げ終わり]
一八八一年、五つの称号の中、「マリエトア」「ナトアイテレ」「タマソアリィ」の三つを有《も》つ大酋長ラウペパが推されて王位に即いた。「ツイアアナ」の称号を有《も》つタマセセと、もう一つの称号「ツイアトゥア」の持主マターファとは、代る代る副王の位に即くべく定められ、先ず始めにタマセセが副王となった。
其の頃から丁度、白人の内政干渉が烈しくなって来た。以前は、会議《フォノ》及び其の実権者、ツラファレ(大地主)達が王を操っていたのに、今は、アピアの街に住む極く少数の白人が之に代ったのである。元来アピアには、英・米・独の三国がそれぞれ
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