。マターファと共に、我が褐色の友の多くが災害を受けたに違いない。俺は彼等の為に何をしたか? 今後も、何を為し得るか? 蔑《さげす》むべき気象観測者!
昼食後、街へ。病院へ行って見たら、ウル(肺をやられた酋長の名)は、まだ不思議に生きていた。腹をやられた男は既に死んでいた。
斬取《きりと》られた十一の首がムリヌウに持込まれた。土人等の大いに驚き懼《おそ》れたことに、其の首の一つは、少女のであった。しかも、サヴァイイの或る村のタウポウ(村を代表する美しい娘)の首だった。南海の騎士を以て任ずるサモア人の間に在って、之は許すべからざる暴行である。此の首だけは、最上等の絹に包まれ、叮寧《ていねい》な陳謝状と共に、早速、マリエヘ送り返されたそうだ。少女は父の手伝に弾薬でも運んでいた所を射たれたものに違いない。父親の兜《かぶと》の飾り毛にする為に自分の髪を刈ったらしく、男の様な刈上げだったので、首を取られたのだともいう。しかし、何と、彼女の美にふさわしき、選ばれたる最期でありしよ!
マターファの甥のレアウペペだけは、首と胴と両方とも運ばれた。ムリヌウの大通りでラウペパがそれを閲見し、部下の功労に謝する演説をした。
二度目に病院に寄った時、看護婦や看護卒は一人もいず、患者の家族だけだった。患者も附添人も木枕で昼寝をしていた。軽傷の美青年がいた。二人の少女が彼をいたわり、共に左右から彼の枕に枕しておった。他の一隅には、誰も附添っていない一人の負傷者が、打捨てられ、毅然《きぜん》たる様子で横たわっていた。前の美青年に比べて、遥かに立派な態度と映ったが、彼の容貌は美しくはなかった。顔面構造の極微の差が齎《もたら》す何という甚だしい相違!
七月十日
今日は疲れて動けない。
更に多くの首がムリヌウに持込まれたそうだ。首狩の風をやめさせるのは容易なことではない。「之以外のどんな方法で勇敢さを証《あか》し得るか?」又、「ダヴィッドがゴライアスを退治した時、彼は巨人の首を持帰らなかったか?」と彼等はいう。しかし、今度の、少女の首を取ったことだけは、全く恐縮しているようだ。
マターファは無事にサヴァイイに迎えられたという説と、サヴァイイヘの上陸を拒絶されたという説とが行われている。どちらが本当か、まだ判らない。サヴァイイに迎えられたとすれば、尚大規模な戦争が続けられよう。
七月十二日
確かな報道は入らず。流言のみ頻《しき》りなり。ラウペパ軍はマノノヘ向け進発したと。
七月十三日
マターファがサヴァイイを追われ、マノノに戻った由、確報あり。
七月十七日
最近|投錨《とうびょう》したカトゥーバ号のビックフォード艦長を訪う。彼は、マターファ鎮圧の命を受け、明朝払暁、マノノヘ向けて出航すると。マターファの為、艦長の能《あた》う限りの好意を約束して貰う。
しかし、マターファはおめおめ[#「おめおめ」に傍点]と降伏するだろうか? 彼の一統は武装解除に甘んずるだろうか?
マノノヘ激励の書信をやるすべもない。
十三
独・英・米三国に対する敗残の一マターファでは、帰趨《きすう》は余りに明かであった。マノノ島へ急航したビックフォード艦長は三時間の期限付で降服を促した。マターファは投降し、同時に、追撃して来たラウペパ軍のためにマノノは焼かれ掠奪《りゃくだつ》された。マターファは称号|剥奪《はくだつ》の上、遥かヤルート島へ流謫《るたく》され、彼の部下の酋長《しゅうちょう》十三人もそれぞれ他の島々に追放された。叛乱者側の村々への科料六千六百|磅《ポンド》。ムリヌウ監獄に投ぜられた大小酋長二十七人。之が凡《すべ》ての結果であった。
躍気になったスティヴンスンの奔走も無駄になった。流竄者《りゅうざんしゃ》は家族の帯同を許されず、又、何人との文通をも禁ぜられた。彼等を訪ねることの出来るのは牧師だけである。スティヴンスンはマターファヘの書信と贈物とをカトリックの僧に託そうとしたが、拒絶された。マターファは凡ての親しい者、親しい土地と切離され、北方の低い珊瑚《さんご》島で、鹹気《しおけ》のある水を飲んでいる。(高山渓流に富むサモアの人間は鹹水に一番閉口する。)彼はどんな罪を犯したのか? サモアの古来の習慣に従って当然要求すべき王位を、遠慮して気永に待ち過ぎたという罪を犯しただけだ。そのため、敵に乗ぜられ、喧嘩《けんか》を売付けられ、叛逆者の名を宣せられたのである。最後迄忠実にアピア政府に税金を納めていたのは彼であった。首狩禁絶を主張する少数の白人の説を用いて、真先に之を部下に実行させたのは彼であった。彼は、白人をも含めた全サモア居住者の中で(とスティヴンスンは主張する。)最も嘘言《きょげん》を吐《つ》かぬ人間だ。しかも、斯《こ》うした男の不幸を救う為
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