《きれめ》から時折、暁近い鈍い白さが、海と野の上に流れる。天地は未だ色彩を有《も》たぬ。北欧の初冬に似た、冷々した感じだ。
湿気を含んだ烈風が、まともに吹付ける。大王|椰子《やし》の幹に身を支え、辛うじて私は立っていた。何かしら或る不安と期待のようなものが心の隅に湧いて来るのを感じながら。
昨夜も私は長いことヴェランダに出て、荒い風と、それに交る雨粒とに身をさらしていた。今朝も斯《こ》うやって強い風に逆らって立っている。何か烈しいもの、兇暴《きょうぼう》なもの、嵐のようなものに、ぐっ[#「ぐっ」に傍点]とぶっつかって行きたいのだ。そうすることによって、自分を一つの制限の中に閉込めている殻を叩きつぶしたいのだ。何という快さだろう! 四大の峻烈《しゅんれつ》な意志に逆らって、雲と水と丘との間に屹然《きつぜん》と独り目覚めてあることは! 私は次第にヒロイックな気持になって行った。‘O! Moments big as years.’とか、‘I die, I faint, I fail.’とか、とりとめない文句を私は喚いた。声は風に千切られて飛んで行った。明るさが次第に、野に丘に海に加わって行く。何か起るに違いない。生活の残渣《ざんさ》や夾雑物《きょうざつぶつ》を掃出して呉れる何かが起るに違いないという欣《よろこ》ばしい予感に、私の心は膨れていた。
一時間もそうしていたろうか。
やがて眼下の世界が一瞬にして相貌を変じた。色無き世界が忽《たちま》ちにして、溢《あふ》れるばかりの色彩に輝き出した。此処からは見えない、東の巌鼻《いわはな》の向うから陽が出たのだ。何という魔術だろう! 今迄の灰色の世界は、今や、濡れ光るサフラン色、硫黄色、薔薇《ばら》色、丁子色、朱色、土耳古《トルコ》玉《だま》色、オレンジ色、群青、菫《すみれ》色――凡《すべ》て、繻子《しゅす》の光沢を帯びた・其等の・目も眩《くら》む色彩に染上げられた。金の花粉を漂わせた朝の空、森、岩、崖、芝地、椰子樹《やしじゅ》の下の村、紅いココア殻の山等の美しさ。
一瞬の奇蹟を眼下に見ながら、私は、今こそ、私の中なる夜が遠く遁逃《とんとう》し去るのを快く感じていた。
昂然《こうぜん》として、私は家に戻った。
二十
十二月三日の朝、スティヴンスンは何時もの通り三時間ばかり、「ウィア・オヴ・ハーミストン」を口
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