蓬元帥《てんぽうげんすい》猪悟能《ちょごのう》とともに、新しい遍歴《へんれき》の途に上ることとなった。しかし、その途上でも、まだすっかり[#「すっかり」に傍点]は昔の病の脱《ぬ》け切っていない悟浄は、依然として独り言の癖を止《や》めなかった。渠《かれ》は呟《つぶや》いた。
「どうもへん[#「へん」に傍点]だな。どうも腑《ふ》に落ちない。分からないことを強《し》いて尋ねようとしなくなることが、結局、分かったということなのか? どうも曖昧《あいまい》だな! あまりみごとな脱皮《だっぴ》ではないな! フン、フン、どうも、うまく納得《なっとく》がいかぬ。とにかく、以前ほど、苦にならなくなったのだけは、ありがたいが……。」
[#地から字上げ]――「わが西遊記」の中――



底本:「李陵・山月記・弟子・名人伝」角川文庫 角川書店
   1968(昭和43)年9月10日改版初版発行
   1998(平成10)年5月30日改版52版発行
入力:佐野良二
校正:松永正敏
2001年3月16日公開
2004年2月4日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http
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