て表へ出た。表には犬も四匹ほど待っていた。
 雪明りの狭い田舎道を半里ばかり行くと、道は漸《ようや》く山にさしかかって来る。疎林の間を、まだ新しい雪を藁靴《わらぐつ》でキュッキュッと踏みしめながら勢子達が真先に登って行く。その前になったり後になったりしながら、犬が――雪明りで毛色ははっきり判らないが、あまり大型でない――脇道をしては、方々の木の根や岩角の匂を嗅ぎ嗅ぎ小走りに走って行く。私達はそれから少し遅れて一かたまりになり、彼等の足跡の上を踏んで行く。今にも横から虎がとび出してきはしまいか、後からかかって来たらどうしよう、などと胸をどきどきさせながら、私は、もう趙とも余り話をせずに黙って歩き続けた。上《のぼ》るに従って道は次第にひどくなる。しまいには、道がなくなって、尖《とが》った木の根や、突出た岩角を越えて上って行くのだ。寒さはひどい。鼻の中が凍って、突張ってくる。頭巾をかぶり耳には毛皮を当てているのだが、やはり耳がちぎれそうに痛む。風が時々樹梢を鳴らす度に一々はっ[#「はっ」に傍点]とする。見上げると、疎《まば》らな裸木の枝の間から星が鮮かに光っている。こうした山道が凡《およ》そ
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