が縦横に活躍する。そこに登場する女は、下女の末といえども、悉く、色が抜けるように白くなければならぬ。それは、全く、今の私達の眼から見て、時代錯誤に近い世界――髭の生えた官員様がえらかったり、色々な肩書が法外にものをいったりする世界――なのであるが、そういう時代錯誤的な観念さえもが(更に、氏の作品の構想の幼稚な不自然ささえも)ここでは「鏡花的な美」の不可欠の要素となっているのは不思議なことである。蝙蝠(湯女の魂)・蝦蟇・河童(飛剣幻なり)・蛭・猿(高野聖)等のかもし出す怪奇と、狭斜の巷に意気と張りとで生きて行く女性(婦系図のお蔦等・通夜物語の丁山・その他)純情の少女(婦系図のお妙・三枚続のお夏以下)勇み肌の兄哥(三枚続の愛吉)等のつくり出す情調と――この二つが、まぜあわされて、ここに、鏡花好みに統一された極楽浄土ともいうべき別乾坤ができ上るのである。読者は、それが、つくりもの[#「つくりもの」に傍点]――つくりもの[#「つくりもの」に傍点]もつくりもの[#「つくりもの」に傍点]、大変なつくりもの[#「つくりもの」に傍点]なのだが――であることを、はじめは知っていながら、つい、うかうかと引
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