フ多いスカートの長い・贅沢《ぜいたく》な洋装である。傍《はた》から見ていても随分暑そうに思われる。男でも日曜は新しい青いワイシャツの胸に真白な手巾《ハンケチ》を覗《のぞ》かせている。教会は彼らにとって誠に楽しい倶楽部《クラブ》、ないし演芸場である。
 衣服の法外な贅沢さに引換えて、住宅となると、これはまた、ミクロネシヤの中で最も貧弱だ。第一、床《ゆか》のある家が少い。砂、あるいは珊瑚《さんご》屑を少し高く積上げ、そこへ蛸樹の葉で編んだ筵《むしろ》を敷いて寝るのである。周囲に四本の柱を立て、蛸樹の葉と椰子の葉とで以てそれを覆えば、それで屋根と壁とは出来上ったことになる。こんな簡単な家は無い。窓も作ることは作るが、至って低い所に付いているので、ちょうど便所の汲取口のようである。このような酷《ひど》い住居にも、なお必ずミシンとアイロンとだけは備えてあるのだ。彼らの衣裳道楽に呆れるよりも、宣教師と結托したミシン会社の辣腕《らつわん》に呆れる方が本当なのかも知れないが、とにかく、驚くべきことである。もちろん、ジャボールの町にだけは、床を張った・木造の家も相当にあるが、そうした床のある家には必ず縁
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