Pットが沢山並び、室内に張られた紐《ひも》には簡単着の類が乱雑に掛けられ(島民は衣類をしまわないで、ありったけだらしなく[#「だらしなく」に傍点]干物《ほしもの》のように引掛けておく)竹の床の下に※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]どもの鳴声が聞える。室の隅には、マリヤンの親類でもあろう、一人の女がしどけなく寝ころんでいて、私どもがはいって行くと、うさん臭そうな[#「うさん臭そうな」に傍点]目を此方に向けたが、またそのまま向うへ寝返りを打ってしまった。そういう雰囲気の中で、厨川白村やピエル・ロティを見付けた時は、実際、何だかへんな気がした。少々いたましい気がしたといってもいい位である。尤も、それは、その書物に対して、いたましく感じたのか、それともマリヤンに対していたいたしく感じたのか、其処まではハッキリ判らないのだが。
 その『ロティの結婚』については、マリヤンは不満の意を洩らしていた。現実の南洋は決してこんなものではないという不満である。「昔の、それもポリネシヤのことだから、よく分らないけれども、それでも、まさか、こんなことは無いでしょう」という。
 部屋の隅を見ると、蜜柑箱の
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