紫との鮮やかなクロトンの亂れ葉が美しく簇《むらが》つてゐた。

          ※[#ローマ数字4、1−13−24]
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 月曜島には、公學校校長の家族の外に内地人はゐない。
 朝、校長の官舍で食事をしてゐると、遠くから歌聲が聞えて來る。愛國行進曲だ。多くの子供等の聲と直ぐに分つた。聲がだん/\近付いて來る。あれは何ですと聞けば、同じ方面の生徒等は一緒に登校させるのだが、其の連中が、合唱しながらやつて來るのだといふ。聲は官舍の近く迄來ると、やんだ。途端に、トマレ! といふ號令が掛かる。玄關から外を見ると二十人程の島民兒童がちやんと二列に縱隊を作つてやつて來てゐるのだ。先頭の一人は紙の日の丸を肩にかついでゐる。其の旗手が、再び、ヒダリ向ケヒダリ! と號令をかけた。一同が校長の家に向つて横隊になる。と、一齊に、オハヨウゴザイマスと言ひながら頭を下げた。それから、又、先頭の腫物だらけの旗手が、ミギ向ケミギ! 前ヘススメ! をかけて、一行は、愛國行進曲の續きを唱ひながら、官舍の隣の學校の方へと曲つて行く。官舍の庭には垣根が無いので、彼等の行進が良く見える。背丈が(
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