ノ見ながら、此の島の運命を考へた時、あらゆる重大なことは凡て「|にも拘はらず《トロッツデム》」起る、といつた誰かの言葉を思ひ出した。ものが亡びる時は、こんなものなのかと思つた。科學者達は其の滅亡の跡を見て數々の原因を指摘しては得々としてゐるが、其の原因と稱する所のものは、何ぞ圖らん、原因ではなくて結果に過ぎないことが多いのである。
 秋の終りの最後の薔薇に、思ひがけなく大輪の花が咲くことがあるやうに、此の島の最後の娘も或ひは素晴らしく美しく怜悧な子(勿論島民の標準に於てではあるが)ではあるまいかと、甚だ浪漫的な空想を抱いて、私は其の女の兒を見に行つた。そして、すつかり失望した。肥つてこそゐたが、うす汚い、愚かしい顏付の、平凡な島民の子である。鈍い目に微かに好奇心と怯えとを見せて、此の島には珍しい内地人たる私の姿に見入つてゐた。まだ黥《いれずみ》はしてゐない。大切にされてゐるとは言つても、フランペシヤだけは出來ると見える。腕や脚一面に糜爛した腫物がはびこつてゐた。自然は私程にロマンティストではないらしい。
 夕方、私は獨り渚を歩いた。頭上には亭々たる椰子樹が大きく葉扇を動かしながら、太平
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