日本流の刺身に作つたといふ。
少年について一歩日向の砂の上に踏出した時、タマナ樹の梢から眞白な一羽のソホーソホ鳥(島民が斯う呼ぶのは鳴き聲からであるが、内地人は其の形から飛行機鳥と名付けてゐる)が、バタ/\と舞上つて、忽ち、高く眩しい碧空に消えて行つた。
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マリヤン
マリヤンといふのは、私の良く知つてゐる一人の島民女の名前である。
マリヤンとはマリヤのことだ。聖母マリヤのマリヤである。パラオ地方の島民は、凡て發音が鼻にかかるので、マリヤンと聞えるのだ。
マリヤンの年が幾つだか、私は知らない。別に遠慮した譯ではなかつたが、つい、聞いたことがないのである。とにかく三十に間があることだけは確かだ。
マリヤンの容貌が、島民の眼から見て美しいかどうか、之も私は知らない。醜いことだけはあるまいと思ふ。少しも日本がかつた所が無く、又西洋がかつた所も無い(南洋で一寸顏立が整つてゐると思はれるのは大抵どちらかの血が混つてゐるものだ)純然たるミクロネシヤ・カナカの典型的な顏だが、私はそれを大變立派だと思ふ。人種としての制限は仕方が無いが、其の制限の中で考へれば、實にのび/\
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