《くりいだ》すカメレオンの舌の肉色瞬間に見つ
長く圓き肉色の舌ひらめくやカメレオンの口はた[#「はた」に傍点]と閉ぢけり
カメレオンが木に縋《(すが)》りゐる細き尾のくる/\と卷く卷きのおもしろ
カメレオンの胴の薄さや肋骨も翠《みどり》なす腹に浮きいでて見ゆ
鵜《(う)》の歌
[#ここから3字下げ]
豆州稻取海岸にて
[#ここで字下げ終わり]
山直ちに海に崩れ入る岩の上に飛沫浴びつゝ鵜は立ちてゐる
我が投げし石はとどかず崖下の氷雨《ひさめ》しぶかふ荒磯の鵜に
たちまちに海黒み來ぬ巖《いは》の上の鵜の聲風に吹消されつゝ
雨まじり吹く風強み岩の鵜は翼《つばさ》收めてこらへてをるも
鸚鵡《(おうむ)》の歌
まどろみゐてふと眼をあけし赤羅《あから》鸚鵡我を見いでて意外気《おもはずげ》なり
緋衣《ひごろも》の大嘴《おほはし》鸚鵡我を見てまた懶《もの》うげに眼をとぢにけり
娼婦《たはれめ》の衣裳《きぬ》を纒へる哲学者鸚鵡眼をとぢもの思ひをる
いにしへの達磨大師に似たりけり緋衣曳きてものを思へば
眼をとぢて日にぬくもれる緋鸚鵡の頬の毛|脱《ぬ》けていた/\しげなり
緋に燃ゆる胸毛に嘴《くち》を挿入れて鸚鵡うつ/\眠りてゐるも
麻の實をついばむ鸚鵡かたへなる我を無視してひた食《は》みに食《は》む
嘴《はし》と嘴|疾《と》く動きつゝまつ[#「つ」に「ツ」の注記]黒の鸚鵡の舌はまるまりて見ゆ
麻の實の殼を猛烈に彈《はじ》き飛ばす赤羅裳《あからも》鸚鵡ひたむきなるを
年老いし大赤鸚鵡|翼《はね》さきの瑠璃色なるが伊達者めきたり
小蝦《(こえび)》の歌
[#ここから3字下げ]
――土肥海岸所見――
[#ここで字下げ終わり]
潮ひきし岩のくぼみの水溜り許多《ここだ》小蝦の影ひそみゐる
飴色に陽《ひ》に透きとほる小蝦らの何か驚きにはかに乱る
幾多《ここだく》の小蝦隱れし砂煙やがて靜まり水澄みにけり
砂煙の砂の一粒一粒が音なく沈み蝦隱れけり
黒鯛の歌
[#ここから3字下げ]
――土肥釣堀にて――
[#ここで字下げ終わり]
巖陰《いはかげ》はさ青に透り黒鯛の尾鰭白々と妖《あや》しく翻《かへ》る
洞窟に光は入らず黒き水の湧くが如くに黒鯛|群《む》るる
仔山羊の歌
[#ここから3字下げ]
熱《あた》川の浜に一匹の仔山羊あり
海に向ひてしきりに啼く
その
前へ
次へ
全6ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング