ら、私の處で飼はせて貰はうと思つたのである。まさか學校でも一匹のカメレオンの爲に温室を拵へてはくれまい。
 學校へ行つて其の許可を求めると、校長はじめ他の職員達はもう殆ど昨日のことを忘れてゐたかのやうな口吻だつた。「あゝ、あの昨日の蟲ですか!」といふ。私一人が、此の小爬蟲類の出現に狂喜してゐただけだつたのだ。
 生徒達の所へ行つて、昨日頼んでおいた蠅を貰ふ。思ひの外、蠅は生殘つてゐるものだ。マッチ箱に一杯集まつた。之で二三日分の餌には足りるだらう。
 蠅を持つて歸らうとしてゐると、後から國語の教師の吉田が追ひかけて來て、丁度自分も歸るからとて一緒に歩き出す。何か話し度くてたまらぬことがあるらしい。M・ベエカリイに寄つて茶を飮みながら一時間程話す。
 私とほゞ同年だが、全く此の男程精力絶倫で思ひ切り實用向きで、恥も外聞もなく物質的で、懷疑、羞恥、「てれる[#「てれる」に傍点]」などといふ氣持と縁の遠い人間を私は知らない。疲れる事を知らぬ働き手。有能な事務家。方法論の大家。(本質論など惡魔に喰はれてしまへ!)常に勇氣凜々たる偏見に充ち滿ちて、あらゆる事に勇往邁進する男。運動會、展覽會、學藝
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