》を得、なお引続き滞岳《たいがく》して加養せんことを懇請《こんせい》したれども、聴《き》かれざりしかば、再挙の保証として大に冀望《きぼう》する所あり、かつこの事業の遠大を期するものなることを慮《おも》い、遂に一旦下山に決したり、ここに於て予は遂に造化の陰険なる手段に敵すること能わずして、全く失敗に帰したるなり、これに就きても予はこれまでの実験上、ますます気象の人世《じんせい》に最大関係あることを確認するを得たり、内地に於ける各種の企業者にして、しかも平地に於てすら、往々|身体《しんたい》の健康を傷《そこな》いて失敗するものあり、いわんや海の内外土地の開《かい》未開《みかい》を問わず、その故郷を離れて遠く移住せんと欲するもの、もしくは大に業を海外に営まんと欲するものの如きは、先ずその地の気象を調査すること最大要務なりとす、従て平素より気象なるものに注意し、これが観念を養うを要す、然《しか》らざればあるいは失敗に帰するに至るべきなり、あに戒《いまし》めざるべけんや。
予はここに於て終に十年来の素志《そし》を達する能わずして、下山の止《や》むべからざるに至りたれば、腑甲斐《ふがい》なくも一
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