こぶる多端《たたん》なりし、しかも平地に於ける準備と異なり、音信不通《いんしんふつう》の場所なれば、もし必要品の一だも欠くることあらんか、到底《とうてい》これを需《もと》むるに道なし、故に事物によりては直《ただ》ちに生命に関するものあり、しかも滞在半年余の長日月《ちょうじつげつ》を要する胸算《きょうさん》なりしがゆえに、すこぶる注意周到なる準備を為《な》すにあらざれば、能《よ》く堪《た》え得《う》べきに非《あら》ず、予は冬籠《ふゆごも》り後《ご》の困難はむしろ苦とは思わざりしが、諸準備の経費の遣《や》り繰《く》りには、かなり頭を痛めたり、加うるに観測所の構造、材料運搬の方法、採暖《さいだん》の装置、食料もしくは被服《ひふく》の撰択等、多くは相談相手となるべき、経験者なき事柄のみなれば、大抵自ら考慮を回《めぐ》らさざるべからず、殊《こと》に測器の装置、荷物の搬上する道筋の撰択等自ら踏査を要するが如き、古《いにし》えより二度登るものは馬鹿とさえ言伝えられたるにもかかわらず、十数回の昇降をなし、また山頂は快晴なるも五、六合辺にて風雨に遮《さえぎ》られ、建築材料延着のため、山頂に滞在せる大工《
前へ
次へ
全22ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野中 至 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング