の注意を引きつけてきたことがみな、急につまらなくなった。おそらく私たちが若い時にいちばん陥りやすい一片の気まぐれから、私はさっそくこれまでの勉強を放棄した。そして、博物学やそのすべての子孫を畸形の出来そこなった子と見なし、真の知識の足もとにも寄りつけないえせ[#「えせ」に傍点]科学に対して、すこぶる軽侮の念を抱いた。こんな気もちで私は、しっかりした基礎に立っていていかにも私の考慮に値する数学とその数字に関係する研究の諸部門に、手を着けた。
こんなふうにして、へんなぐあいに私たちの魂は組み立てられ、こういうほんのちょっとした絆《きずな》に引かれて私たちは、繁栄か破滅かに向って出発しようとしているのだ。背後をふりかえってみると、性向や意志のこのほとんど奇蹟的な変化が、あたかも私の生命を護る天使が直接に示唆してくれたものであるかのような気がするのであるが、最後の努力は、そのときでさえ運命の星のなかで催して今にも私を包みそうな風雨を避けようとする、保身の精神によってなされたものだ。それが勝利を占めたことは、魂の異常な静けさや嬉しさからみてわかったが、これは私が、あの古くさい、ひとをすっかり悩
前へ
次へ
全393ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング