りた精神をもって観照しているあいだに、私はその原因を考究することに喜びをおぼえた。世界は、この私にとっては、予知しようと望んだひとつの秘密であった。好奇心、眼に見えぬ自然の理法を学ぼうとするじつに熱心な研究、それが眼の前に展《ひろ》げられた時の、有頂天に似た歓び、こういうものが、私の憶い出すことのできるもっとも幼いころの気もちなのだ。
 私と七つ違いの二番目の男の子が生れると、両親は今までの放浪生活を切り上げて、自分の故国に定住した。私たちはジュネーヴに家をもち、市から一里ばかり離れた湖の東岸のベルリーヴに別荘をもったが、たいてい別荘のほうに住んだ。両親の生活はかなり隠遁的なものであった。群衆を避け、少数の者と熱烈な交りを結ぶという私の気質が、こうして生れた。したがって、学校友だちには概して無関係だったが、そのうちの一人とはきわめて密接な友情のきずなで結ばれた。アンリ・クレルヴァルは、ジュネーヴの商人の息子で、珍らしい才能と空想をもった少年だった。冒険的事業や艱難辛苦を、いや、危険をさえも、道楽に好んだ。騎士や恋物語の本を耽読した。史詩をつくったり、妖術と騎士の冒険の物語をたくさん書き
前へ 次へ
全393ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング