を見つけることはなかろうと書きましたね。ところが、不幸のためにその精神が押しひしがれてしまわない前だったら、僕の兄弟分として幸福を感じさせたにちがいないような人間を見つけたのです。
 何か書きつけておいてよいような新しい出来事があったら、この見知らぬ人に関する僕の日記を、とびとびに続けましよう。

[#地から2字上げ]一七××年八月十三日
 例の客人に対する僕の愛情は、日ごとにつのっていきます。この人には、僕も、驚くほど敬服し、また同時に同情せずにおられません。こんなけだかい人間が不幸に引き裂かれているのを、骨の疼くような悲しみを感ぜずに、どうして見ることができるでしょう。それほど心がやさしく、しかも賢く、教養のある心の持ちぬしなのです。そして、話をするときは、そのことばが選りに選った技術で選り出されるのですが、それでも、そのことばは、よどみなく無類の雄弁さをもって流れ出します。
 この人はもう、病気がだいぶよくなって、たえず甲板に出、先に行った橇を見張っている様子です。しかも、不幸な身でありながら、自分の悲惨さにはすこしも気を奪われず、ただ他人の計画に深い閑心をもっているのです。そこ
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