トを出る前に、寒さを感じたので、着物をいくらか着ていたのだけれど、それでは夜露を凌ぐには足りなかった。わたしは、貧弱な、自分ではどうすることもできない、みじめな者で、何も知らず、何も見分けることができないのに、どこからもここからも襲いかかる苦痛を感じて、坐って泣いた。
「まもなく、なごやかな光がこっそりと空に現われ、わたしに嬉しい感じを与えた。わたしははっとして立ち上り、木々のあいだから光り輝くもの(月)が昇ってくるのを見た。驚異のおももちで眺めたものだ。それは動く、ともなく動き、わたしの道を照らしてくれたので、また木の実を探しに出かけた。まだ寒かったので、一本の樹の下で大きな外套を見つけると、それをかぶって地面に坐りこんだ。はっきりとした考えが頭にうかばず、何もかもごちゃ混ぜだった。わたしは、光、飢え、渇き、暗やみを感じたし、数かぎりない物音が耳にひびき、八方からさまざまな匂いが漂ってきた。はっきりと見定めることができるのは、明るい月だけだったので、わたしは喜んでそれを見つめた。
「昼と夜が交替して幾日が過ぎると、夜の球体が虧けてほっそりとなったころには、わたしは自分の感覚をそれぞれ
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