うすれば見えませんよ。」と怪物が、そのいやらしい両手で私の眼を蔽ったので、私がそれをむりやりに押しのけると、怪物は続けた、「ああすれば、あんたの嫌いなものが見えないのに。見えてなくても、話を聞いてわたしを同情することはできるんですよ。話を聞いてください。長い、変った話だから、ここの所の気温は、あんたの繊細な感覚には堪えられませんね。山の上の小屋に行きましょうよ。陽はまだ高いからね。あの雪の絶壁のむこうに陽が沈んで別の世界を照らすまでほ、あんたは、わたしの話を聞いて、どうとも決めることができますよ。わたしが人間の居る界隈を、永久に去って、害のない生活に入るか、それとも、あんたの仲間の人間どもに対する天罰のもととなって、あんた自身をたちまちのうちに破滅させてしまうか、それはあんたしだいだ。」
こう言って怪物は、氷原をよこぎって行ったので、私はあとについて行った。私は胸いっばいになってなんよとも答えなかったが、歩いていくあいだに、あいてが語ったいろいろな議論を考えあわせて、すくなくともその話を聞いてやることに決めた。かなり好奇心も湧き、同情も感じてこの決心を固めたのだった。それまでこいつが
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