に休まないとしても、私にこのはかない歓びを許せ。さもなければ、汝の仲間として、生の歓びから私を奪い去ってくれ。」
こう言ったとき、とつぜん、かなり隔たった所に、超人の速力で私に向って進んでくる人影をみとめた。それは、私が用心して歩いてきた氷の裂け目を跳び越え、近づくにつれてその背丈も人間以上であるように見えた。私は胸さわぎがして、眼に霧がかかり、気が遠くなるのを感じたが、山のつめたい強い風ですばやく正気にかえった。その(見るからにものすごくて憎らしげな!)姿が近づいてくると、それが私の創造したあの下劣なやつであることがわかった。私は怒りと恐怖に慄え、やって来るのを待ってから、組み打ちをして生きるか死ぬかの戦いをする決心をした。そいつはやって来た。そいつの顔は軽蔑や悪意をまじえたむごたらしい苦悶を示し、この世のものならぬ醜悪さがそれをふた目と見られないほど怖ろしいものにしていた。しかし、私には、そんなものはほとんど眼に入らず、怒りと憎しみとで口がきけなかった。私はやっと気を取り直して、狂おしい嫌蔑のこもったことばでほとんどそいつを圧倒しようとした。
私は叫んだ、「畜生め、近づくなら近
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