した者は逃げ去って、世の中を思いのままに歩きまわり、ひょっとしたら人に尊敬されているかもしれないのです。だけど、たとい私が同じ罪を犯して、絞首刑の宣告を受けたからといって、そういうあさましい人間に取って代ろうとはしませんわ。」
極度の苦悶を感じながら、私はこの話に耳を傾けた。私こそ、実際においてではないが、結果において、ほんとうの殺害者であったのだ。エリザベートは私の顔の苦悩の色を察し、私の手をやさしく取りながら言った、「ヴィクトル[#「ヴィクトル」は底本では「ヴィクル」]、気をおちつけなくちゃいけないわ。今度の出来事は私にもこたえ、それがどんなにつらかったかは神さまもこぞんじですが、あなたほどひどく参ってはおりません。あなたのお顔には、絶望の色が、ときには復讐の念が現われていますので、私、慄えていますわ。ねえ、ヴィクトル、そんな暗い情熱をなくしてください。あらゆる望みをあなたにつないでいる、まわりの者を思い出してください。私たちは、あなたを幸福にしてあげる力をなくしたのでしょうか。ああ、私たちが愛しているあいだは、この平和な美しい国にあってたがいに誠実であるあいだは、安らかな祝福を
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