をかわいがった以上に子どもをかわいがった人は、どこにもないのだ。」と言いだした(そう語って眼に涙を溜めた)、「けれども、手放しに歎き悲しむ様子を見せてみんなをよけいに不幸にするようなことをさしひかえるのが、生き残った者に対する義務じゃないかね。それはまた、おまえの背負っている義務でもあるのだよ。あまり悲しみすぎるということは、向上や悦びの妨げになるし、それがなくては人間が社会に適合しなくなるような日常の仕事に対してまでも妨げになるよ。」
この忠告は、りっぱではあるが、私のばあいにはてんで当てはまらなかった。悔恨につらさがともなわず、恐怖のなかにほかの感情とともに驚きが入り交らなかったとすれば、私はまっさきに、悲歎を隠してみんなを慰めてあげたかった。今は、絶望した顔つきで父に答え、父の眼にとまらぬようにしようと努力することしかできなかった。
このころ、私たちは、ベルリーヴの家に引っ込んだ。この、居所が変ったということが、私には特に気に入った。十時にきまって門が閉まり、それ以後湖に残ることができないことには、ジュネーヴの城壁の内に住んでいた私はすっかり閉口していた。それがいま自由になっ
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