憐憫の情を許さぬ威厳と美があらわれていた。この絵の下にウィリアムの小画像があったが、私はそれを見て涙をこぼした。そうしているうちに、エルネストが入って来た。私が着いたと聞いて、急いで歓迎しに来たのだった。エルネストは私を見て、悲しいながらも歓んだ表情をして言った、「お帰んなさい、僕の大好きなヴィクトル。ああ! 三箇月前に帰って来てほしかったのにね、そしたらみんなで嬉しがって喜ぶのを見れたでしょうに! 兄さんがいま帰って来ても、どんなものも和らげることのできない不幸を共にするだけだ。だけど、兄さんが居てくれれば、不幸のために参ってしまいそうなお父さんが、元気をとりもどしてくださるだろうし、兄さんが納得のいくように話してくれれは、エリザベートだって、ただいたずらに自分を責めて苦しむこともやめるでしょうよ。――かわいそうなウィリアム! あの子は僕らのとっておき、僕らの誇りだった!」
涙がとめどもなく弟の眼からこぼれ、断末魔の苦悶の感じが私の体じゅうを馳けめぐった。以前はひたすら、さびしい家のみじめなありさまを想像していたが、現実はそれに劣らず怖ろしい真新しい災難として私に迫ってきた。私はエ
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