くおなりだと知らせてよこしましたもの。この知らせをあなた自身がお書きになって確かめさせてくださることを一心に願っています。
「よくなってください――そして私たちのところへ帰って来てください。幸福な、愉快な家が、またあなたを心から愛する友だちが待っています。あなたのお父さまは御壮健で、あなたに会うことだけを――あなたが達者でいることをお確かめになることだけを望んでおいでですが、それができたら、あの慈愛深いお顔を曇らせたりもなさらないでしょう。私たちのエルネストのよくなったのをお気づきになったら、あなたはどんなにお喜びでしょう。もう十六になり、元気ではち切れそうですわ。ほんとうのスイス人になって、外国の軍隊に入るのだと言っていますが、すくなくとも、あなたがお帰りになるまでは、私たちだけでこの子を離してやることはできません。伯父さまは、遠い国の軍隊勤めをするという考えを喜んでいらっしゃるわけではありませんが、エルネストはあなたのような勉強ぶりを見せたことがないのです。勉強をいやな束縛だと考えてさしじゅう外にばかり出て、山に登ったり湖水で舟を漕いだりしているのです。ですから、この点を考えて、自分で選んだ職業につくことを許してあげないと、怠け者になるおそれがあります。
「子どもたちが大きくなったこと以外には、あなたが家を出られてから、変ったことはほとんどありません。青い湖、雪を頂いた山々、そういうものはちっとも変っていません。――また、私たちの平和な家庭や充ち足りた心は、それと同じ不変の法則に支配されているとぞんじます。私は、こまごました仕事で、時間の経つのも知らず、それで慰められておりますし、どんなほねおりも、身のまわりに見るのは幸福で親切な顔だけだということで報いられるのです。あなたがそちらにいらしてから、私たちの小さな家庭に、一つだけ変ったことが起りました。ジュスチーヌ・モリッツが、どんな機会に私たちの家庭に加わったか、おぼえていらっしゃいますか。たぶん、ごぞんじでないでしょう。だから、簡単にこの人の身の上ばなしを申しあげます。この人の母親のモリッツ夫人は何人の子をかかえた未亡人で、ジュスチーヌはその三番目の子です。この子はいつも父親のお気に入りでしたが、母親のほうは妙に片意地を張ってその子をかわいがらず、モリッツさんが亡くなられてからはとてもひどく扱っていました。私の
前へ 次へ
全197ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング