に停ったが、扉が開くと、アンリ・クレルヴァルの姿が見え、私を見つけてさっそく跳び降りた。「やあ、フランケンシュタイン、君に会えてこんなに嬉しいことはないよ。僕が降りた瞬間にそこに君が居るなんて、なんてしあわせなことだろうね!」
 クレルヴァルに会った嬉しさは譬えようもなかった。こうしてクレルヴァルを前にしてみると、父やエリザベートやあらゆるなつかしい思い出のこもる家のことが、胸中に蘇ってきた。クレルヴァルの手を握ると、私は恐怖や不幸を一瞬にして忘れてしまい、いきなり、しかも何箇月ぶりではじめて、静かなおちついた喜びを感じた。だから、あらんかぎりの真心をこめて友を歓迎し、私の大学まで歩いていった。クレルヴァルはしばらくのあいだ、私たちのおたがいの友だちのこと、インゴルシュタットへ来ることを許された自分の幸福のことを話しつづけた。「簿記という貴重な技術だけが必要な知識の全部じゃない、っていうことを、おやじに納得させるのが、どんなにむずかしかったか、君にも容易にわかるだろうよ。まったくのところ、最後までなかなか聴き容れそうもなく、僕の根気よい歎願に対してきまって答えたのは、『ウェークフィルドの牧師』([#ここから割り注]オリヴァー・ゴールドスミスの作品――訳註[#ここで割り注終わり])に出てくるオランダ人の校長のことばと同じで、『わしはギリシア語かわからんでも、年に千ポンドの収入があるし、ギリシア語なしでもたらふく食べられるよ』だってさ。けれども、僕に対する愛情のほうが、とうとう学問嫌いにうち勝って、知識の陸地を発見する航海に就くことを許してくれたんだ。」
「君に会えてとても嬉しいよ。だけど、父や弟らやエリザベートのことは、まだ聞かせてもらえないね。」
「とても達者だよ。そして幸福だよ。ただ、君がめったに手紙をよこさないのかちょっと気がかりのようだったね。その話については、おいおい君に、ちっとばかり小言をいうつもりだ。――それはそうとフランケンシュタイン」と言いさし、私の顔をつくづく眺めて続けた、「今まで言わなかったが、君はたいへんかげんがわるそうに見えるよ。ひどく痩せてるし、顔色がよくない。まるで幾晩も眠らなかったように見えるぜ。」
「たしかに図星だよ。このごろ、一つの仕事に没頭しきっていたもんだから、君にもわかったようにろくすっぽ休息を取っていないんだ。しかし、この仕
前へ 次へ
全197ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング