スチーヌが無罪になるわけでもなかろう。
 ジュスチーヌの様子はおちついていた。喪服を着ていて、いつも人好きのする顔がその厳かな感情のためになんともいえぬ美しさを湛えていた。無数の人の視線と呪咀を浴びてはいても、無罪を確信しているように見え、慄えたりしなかった。こんなことがなければその美しさのために集まったあらゆる親切さも、ああいう大罪を犯したと考えられているので、その想像のために傍聴者の心から抹殺されてしまったのだ。これに対して、ジュスチーヌは平静だったが、それは明らかに無理に支えている平静さだった。前に取り乱したことが有罪の証拠として挙げられたので、心を励まして勇気を出しているように見えた。法廷に入って来ると、あたりを見まわし、私たちの坐っているところをすばやく見つけた。私たちを見ると、涙で眼が曇ったらしかったが、すぐに気をとりなおした。しかし、その悲しげな、情のこもった顔つきが、この少女がまったく無罪だということを証明しているように見えた。
 裁判が始まり、検事がジュスチーヌ[#「ジュスチーヌ」は底本では「ジュチーヌ」]告発の論告をしたあとで、数人の証人が呼ばれた。いろいろの奇妙な事実が重なりあってジュスチーヌを不利にしていたが、私のように無罪の証拠をもっていない者なら、そのために誰でも、無罪とすることに二の足を踏むにちがいない。ジュスチーヌは、殺人のおこなわれた夜は、ずっと家に居らず、夜明けごろ、殺された子どもの死体があとで見つかった地点から遠くない所に居るのを、市場の女に見つかっている。その女が、そこで何をしているのかと尋ねたが、ジュスチーヌの様子はすこぶるへんで、どぎまぎしたわけのわからぬ答えを返しただけであった。八時ごろに家に戻り、昨夜どこで過ごしたかと訊かれると、坊ちゃんを捜しに行ったと答え、とてもしんけんな顔をしてウィリアムのことを聞きたがった。死体を見ると、猛烈なヒステリーの発作を起し、数日間も床に就いてしまった。それから、ポケットに入っているのを女中が見つけ出したという画像が提出され、ジュスチーヌが、吃り声で、それは、坊ちゃんが居ないのに気がつく一時間前に、その頸に自分が懸けてあげたものと同じものだ、ということを証言すると、恐怖と憤慨のつぶやきが法廷にひろがった。
 ジュスチーヌは抗弁を求められた。裁判が進行するにつれて、その顔色が変った。驚き、
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