方に、その金額を記入する。現在の会計の慣習では、流動資本勘定の代りに、他の二つの勘定科目を用いる。その一は原料及び仕入商品を借方に記入する商品勘定、他は地代・賃銀及び利子を借方に記入する営業費勘定である。もし必要があれば、この細別を更に詳細な分類とすることが出来る。だが右に見てきたように、一般的流動資本勘定を置き換えたこれらすべての特種勘定は損益計算に当って、結合せられねばならぬ。
複式簿記はこのようなものである。その原理は、ある勘定の借方または貸方に金額を記入したときは[#「ある勘定の借方または貸方に金額を記入したときは」に傍点]、必ず他の勘定の貸方または借方にこれを記入すること[#「必ず他の勘定の貸方または借方にこれを記入すること」に傍点]である。この原理から、借方残高の合計すなわち資産は貸方残高の合計すなわち負債に常に等しいという結果が出てくる。第一次的には勘定科目の順序に従い、第二次的には日附に従って記入せられる帳簿は元帳[#「元帳」に傍点](grand−livre)と称せられる。それに附属し、同じ記帳を日附の順序に従い、第二次的に勘定の順序に従って記入せられる帳簿は、日記帳[#「日記帳」に傍点](journal)と呼ばれる。
一九四 現金勘定は、あるときは借方に、あるときは貸方に記入せられる。資本主勘定は、貨幣の貸主である資本家の数に細分せられ得る。固定資本勘定は一般に借方に記入せられる。流動資本勘定はあるときは借方にあるときは貸方に記入せられる。以上がすべての企業の主要な四つの勘定である。固定資本勘定の借方は固定資本の額を示す。流動資本勘定の借方は、未だ生産物に具体化しない流動資本の額を示す。右に説明した複式簿記が、商工業、銀行業においてと同じく、農業においても用い得られるか否か。人々は現に盛にこれを論じている。これは要するに、農業は地用・労働・利殖を原料に適用して生産物を作り出す産業であるか否かを問うことに等しい。もし農業がかかる産業であるとすれば、複式簿記法が、商、工、金融企業においてと同じく、農業においても用い得られないはずはなく、今日この使用をなすに成功していないとしても、これは合理的に諸勘定を設けることを知らないためである。私共はここに理論と実際とが互に相|援《たす》け合う有様の著しい例を見るわけである。けだし、たしかに、簿記によって表わされる産業の実際は生産理論の確立に大いに役立ち得るからである。そしてまた確かに、この理論が確立せられれば、農業の実際を簿記会計によって表わすのに大いに役立ち得るからである。
一九五 次に、企業の損益計算の方法を説明し、企業者の利益または損失の状態がいかにして成立するかを説明せねばならぬ。この説明のために、実際の簿記の慣習と称呼とに従って、例を作るのが適当であろう。
私が指物建具屋であるとする。私は、貯蓄した三、〇〇〇フランと、私に関心を有し私を信用する親族友人から借り入れた七、〇〇〇フランで仕事を始めたとする。これらの人々と私とは契約を結び、これにより彼らは十年間七、〇〇〇フランを貸与する義務を負い、私は彼らに年利五分を支払う義務を負う。そこで彼らは出資社員となる。私は、私自身に対する出資社員であって、三、〇〇〇フランに対する五分の利子を私自身に支払わねばならぬ。私は一〇、〇〇〇フランを私の金庫に収納し、これを現金勘定の借方に記入し、また出資社員勘定の貸方に記入する。もし出資社員が直ちに払込をなさず、または一時に全部の人が払込をしないときは、これら出資者A、B、C等の別々の勘定を設けなければならぬ。
これをなしおえた上で、私は、年五〇〇フランで土地を賃借し、その上に工場を建設し、機械、仕事台、旋盤等を据え付ける。それらのすべてで五、〇〇〇フランを要し、それを貨幣で支払ったとする。私の金庫からこれらの五、〇〇〇フランを引出したとき、現金勘定の貸方に五、〇〇〇フランを記入し、固定資本勘定の借方に五、〇〇〇フランを記入する。
次に、材木その他の材料を二、〇〇〇フラン購入すれば、現金勘定の貸方に二、〇〇〇フランを記入し、商品勘定の借方に二、〇〇〇フランを記入する。
また次に、出資者に対し利子として五〇〇フランを支払い、賃借した土地の地代として五〇〇フランを、賃銀として二、〇〇〇フランを支払ったとすれば、現金勘定の貸方に三、〇〇〇フランを記入し、同時にこれを営業費勘定の借方に記入する。
ところでこれらの出資をなしおえれば、私は注文を受けた家具・什器を製作し、これを売渡す。六、〇〇〇フラン現金で売渡したとすれば、六〇〇〇フランを現金勘定の借方に記入し、またそれを商品勘定の貸方に記入する。
一九六 このときに、損益計算を行ってみる。出来るだけ簡単にするため、商品・原料
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