もつものである。
 一七五 人もまた自然的資本である。しかし消費され得る資本すなわち使用により破壊せられ、事故により消滅せられ得る資本である。そして人は消滅するが、また生殖によって再び現われてくる。その量もまた一定不変ではなくして、ある条件の下に際限なく増加し得るものである。これについて、一つの解説を加えておかねばならぬ。すなわち、人が自然的資本であり、生殖によって再び現われるといっても、一般に認められつつある社会道徳上の原理すなわち人は物として売買せられるべきものではなく、また家畜のように、農場において増殖し得られるものでもないという原理を斟酌《しんしゃく》せねばならぬ。この理由によって人々は、これを価格の決定理論の中に入れることは無益であると考えるであろう。けれども、まず、人的資本が交換せられるものでないにしても、人的用役すなわち労働は、日々市場において需要し供給せられるし、次に人的資本それ自身も評価せられることがしばしばある。その上、純粋経済学は、正義の観点も利害の観点も全く捨象し、人的資本をも土地資本・動産資本と同様に、もっぱら交換価値の観点から考察するのである。故に、私は、奴隷制度の是非の問題とは無関係に、労働の価格といい、人の価格とさえいうであろう。
 一七六 狭義の資本は人為的資本すなわち生産せられた資本であって、かつ消滅する資本である。おそらく、土地及び人のほかにも、自然的富で同時に資本であるものも、多少はあるであろう。ある種の樹木、ある種の家畜などがそれである。だが土地のほかには、消滅しない資本はほとんど無い。だから狭義の資本は、人のように、破壊せられ、消滅する。しかもそれらは、人のように自然的再生産によってではないが、経済的生産の結果として現われてくる。その量は人の量と同じく、一定の条件において無限に増加せられる。この資本についても、私は一つの解説を加えておかねばならぬ。すなわち資本は常に産業特に農業において、土地と結合しているということが、それである。しかし私共が土地という場合には、住居、または生産用の建造物、囲障、灌漑排水の設備、一言にいえば、狭義の資本から切り離していうのであることを忘れてはならない。また肥料、種子、収穫前の作物等、土地に伴うすべての収入から切り離しているのはいうまでもない。そして、私共が地用と呼ぶのは、かく考えられた土地の用役をいうのであり、利殖という名を与えられるのは、土地が結合した狭義の資本の用役のみである。
 以上述べてきたような諸性質は、土地、人、狭義の資本の区別を説明し、かつこの区別の正当なことを証明する所の重要なものである。しかしこの重要性は、社会経済学において、特に著しく現われるのであって、純粋経済学においては、次編に説明する資本化及び経済的発展に関し、現れるのみである。生産編において予想するのは、土地資本[#「土地資本」は底本では「土地、資本」]、人的資本、動産資本が資本であり、収入ではないということだけである。
 一七七 これだけを前提として、交換におけると同時に、生産においても、自由競争の制度の経済社会において、何故《なにゆえ》にかついかにして土地の用役すなわち地用に対し、人的能力の用役すなわち労働に対し、また狭義の資本の用役[#「資本の用役」は底本では「資本」]すなわち利殖に対し、数学的量である所の市場価格が成立するかを研究する。他の適当な言葉でいえば、地代、賃銀、利子を根とする連立方程式を求めねばならぬのである。
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    第十八章 生産の要素と生産の機構

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要目 一七八 (1)(2)(3) 消費的用役に対する土地資本、人的資本及び動産資本。(4)(5)(6) 生産的用役に対する土地資本、人的資本及び動産資本。(7) 新動産資本。(8) 消費目的物。(9) 原料。(10[#「10」は縦中横]) 新収入。(11[#「11」は縦中横])(12[#「12」は縦中横])(13[#「13」は縦中横]) 流通貨幣及び貯蔵貨幣。一七九 消費目的物。原料及び貨幣について新動産資本、新収入、貯蔵の捨象。一八〇、一八一、一八二 生産資本による収入及び動産資本の生産。一八三 資本のみが実物による貸与が可能である。資本の貸与は用役の販売である。一八四 地主、労働者、資本家、企業者。一八五 用役市場、地代、賃銀、利子。一八六 生産物市場。一八七 この相異なる二つの市場は互いに連絡している。一八八 生産の均衡はこの二市場における交換の均衡と、生産物の売価と原価の均等を想定し、企業者は利益も損失も生じない。
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 一七八 生産物の価格の数学的決定の問題を研究したとき、交換における自由競争の機構を正確に定義しなければならなかった
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