re et intrinse`que〕)の基礎は、第一に、この物が生活上の必要、便利、享楽に役立つ適性、一言でいえばこの物の利用と稀少性とである。
「第一に、物の利用というとき、私は、それによって、現実の利用に限らず、宝石の利用のように勝手気ままな利用、好奇心を充す利用に過ぎない利用をも意味せしめているのである。だから、何らの用途のない物は何らの価格を有しないと一般にいわれ得る。
「ところで利用がいかに現実に存在しても、利用のみでは物の価格を生ぜしめるに足りない。その物の稀少性もなければならぬ。すなわちこの物の獲得の困難、人々が欲するだけの量を容易に得ることが出来ない困難さをも考えねばならない。
「なぜなら、人々が一つの物についてもつ欲望はその価格を決定するどころか、人間生活に最も必要な物が、水のように最も廉価であることは、普通に見る所であるから。
「だがまた稀少性のみでも、物に価格を生ぜしめるには不充分である。物に価格があるには、この物にまず何らかの用途がなければならぬ。
「これらが物の価値の真の基礎であるから、価格を増加しまたは減少するものもまた、種々に結合せられたこれらの同じ事情である。
「もしある物の流行が去り、または人々がこの物を重んぜぬようになれば、この物は、以前いかに高価であっても、廉価となる。反対に、費用がほとんどかかっていないありふれた物も、稀少となれば、直ちに価格をもち始め、時にはすこぶる高い価格となることは、例えば乾燥した土地における水、包囲下のまたは航海中のある場合における水に見る如くである。
「一言でいえば、物の価格を高からしめるすべての特殊事情は、この物の稀少性に関係がある。例えば製作の困難なこと、製品の精緻なこと、製作者が名匠であることの如きがこれである。
「自分が所有するある物に対し、ある特殊な理由により、例えばこの物がある人の大きな危険を避けるとか、またはそれがある顕著な事実の記念物であるとか、あるいはまた名誉の象徴であるとかの理由により、この人が、普通に人々が与える以上の評価をなすとき、この価格は好尚の価格または愛著《あいちゃく》の価格(prix d'inclination ou prix d'affection)と呼ばれるのであるが、この価格もまた右の理由と同じ理由に帰せられ得る。」
 これが稀少性学説である。ジェノベエジ僧正(〔Abbe' Genovesi〕)は前世紀の中頃この学説をナポリにおいて教え、シニオル(N. W. Senior)は一八三〇年頃これをオックスフォードにおいて教えた。しかしこれを真に経済学に導き入れた者は私の父である。父は「富の性質と価値の原因について」(De la nature de la richesse et de l'origine de la valeur. 1831.)と題した著書の中に、必要なすべての展開を加えながら、これを特別な方法で説明している(一)[#「(一)」は行右小書き]。通常の論理では、父がこの書物でなした以上のことを何人もなし得ぬであろう。そしてより深い研究をなすには、私が用いたように、父も数学的分析の方法を用いざるを得なかったであろう。
 一六二 だが同じ目的のために、この数学的分析の方法を用いたのは私のみではない。ある著者は私より先にこの方法に拠っている。まずドイツ人ヘルマン・ハインリッヒ・ゴッセンは、一八五四年に公にした著書「人間交通の法則の展開並びにこれにより生ずる人間行為の準則」(〔Entwickelung der Gesetze des menschlichen Verkehrs und der daraus fliessenden Regeln fu:r menschliches Handeln〕)において、次にイギリス人ジェヴォンスは、一八七一年に第一版を、一八七九年に第二版を公にした「経済学の理論」(Theory of Political Economy)において、この方法に拠っている。ゴッセンとジェヴォンスとは共に、かつ後者は前者の著作を知ることなくして、利用または欲望の逓減曲線を作った。またゴッセンは最大利用の条件を、ジェヴォンスは交換方程式を、数学的に導き出した。
 ゴッセンは次の言葉で最大利用の条件を表明している。――二つの商品は[#「二つの商品は」に傍点]、交換後において各交換者が受けた最後の分子が交換者の一方及び双方に対し同じ価値をもつように[#「交換後において各交換者が受けた最後の分子が交換者の一方及び双方に対し同じ価値をもつように」に傍点]、二人の交換者に分配せられなければならぬ[#「二人の交換者に分配せられなければならぬ」に傍点](前掲書八五頁)。今この表現を私共の方式に飜訳するため、二商品を(A)、(B)
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